ティコの灯台

すべてのよだかに灯を。

2018-01-01から1年間の記事一覧

ブログ移転のお知らせ

この度、当ブログは下記サイトに移転することになりました。 https://aotolemon.theblog.me ブログ名も 旧 ティコの灯台 から 新 青と檸檬 に変更されております。 これから新しく書く作品については、新ブログにて掲載させていただきます。 また、移転以前…

口実

新しい靴を買ったので あなたを誘ってみようと思う この間から借りたままのCDも返さなきゃいけないし 「歌詞は好きだけど、メロディは少しものたりないね」 そう言って渡すつもり そしたらきっと躍起になって語って聴かせてくれるのでしょう あの歌のメロデ…

愛とは呼べない

恋人たちはパズルのピース 少女だった頃、そう聞いた 互いに足りないものを補い合う、うつくしいつながりを 少女は探しに行ったまま、戻らない あとに残された寂しいあたしは、あなたにキスするふりをして その、やわらかな内臓に、熱くにがい酸を流して、空…

わたしよ

わたしよ わたしだったものよ どこへ行ってしまったのか 四月の椿が落ちた朝に 松葉に千切られた風が笑う午後に 太陽を灰色の海が呑んだ夕に 潰れた紙コップがやけに目についた夜に もしかして、死んでしまったのか わたしよ わたしだったものよ おれんじの…

アネモネ

また、ドアが叩かれる 「…どうぞ」 「うっとり」が「がっかり」に壊されないよう、冷えた両手に柔らかく握りしめて、 「この音は少し違うかもね」 なんて、舞い上がりそうな心に「じっくり」を被せて大人しくさせる。 ドアが開く か細い隙間から覗くつま先が…

遊星より、

あの日はあなたもご存知のとおり 降ってくるには絶好の星空でした ぼくは月のひかりに流されないよう 必死に流れ星のしっぽにしがみついて 夜のはじっこに着地しました 記念すべき初上陸に ぼくはといえば空を見上げて すっかり遠くなったあなたを探したもの…

U

夕焼けが一つ枝から落ちて 何かの終わりへ滑空する 去年の夏 白い窓辺に置いてきたジュースの缶と おんなじ色をした君のワンピース そのひらひらした裾は 僕の知らないやつだね 時計の針を5分進めてみたり 新しいスニーカーを買ってみたり 林檎を切らずに齧…

キメラ

千の掌で顔に触れ 万の足で土を踏む かつては 成功者であり 失敗者であり 奪う者であり 奪われる者であった 凹と凸 滑らかさとざらつき 固さと柔らかさ 牙と羽毛を持つ 私は 私たちは たった一人であり 一つの生物がみる、無数の夢

ねえ

手をとってよ 声をあげてよ もう足なんて動かないんだろ 泣いてよ そんで笑ってよ その唇の端に貼り付けてあるそいつじゃなくてさ ああ ほらまた、たった一人で だれかのために死んだりなんて、しないでさ

林檎

あした 庭の木に林檎がなる 庭の木に林檎がなる やらかいだろうか 綺麗だろうか おおきいだろうか 丸いだろうか きっと ばら色のほっぺたに 黄金色の甘い中身 あのちゃいろの細い枝の先 心待ちをまつげにのせて ただ、微笑んで見つめる ただ、微笑んで見つめ…

冬を発つ

白陽に 融ける 輪郭 あなたのいのちと同じ温度が つめたい首すじを這って 銀のまだらのアスファルトに跳ねるのが 妙に惜しくて いとおしい 「春を待つよ」 と 笑った目尻に 引っかかった感情は ちょうど今、発ったばかりだ

私たち 何もかも違いましたね 生まれた場所が 朝起きる時間が 話すことばが 好みの料理が 嫌いな服の色が 鼻の形が 目線の高さが 声の通り方が ぜんぶ、ぜんぶ、違っているけど 互いが笑っていることはわかりましたね かあさま 確かに 私たち 人間でしたね

或る国

その国では 紙の上にパンが湧き、 傘をさせば檸檬の味がする水が降ります 獣はみな草を食み、殺して肉を喰らうものはいません 家はいつでも百種類の花で飾られています 人びとは空飛ぶ靴と 掌に乗るほど小さい太陽をひとりに一つずつ持っていて 賢く、さまざ…

ガラス

肺を満たす魚の群れ 煮詰まって 喘鳴に青を混ぜる 「 」 左目に地球 手を伸ばせば虚 白いイヤリング 靴音に斜陽 境界を削る爪先が 化け物じみた悲鳴をあげるのを 知らずに肩の上を跳ねる その黒髪の、なんとあどけないことか 「 」 ああ 細く空いたたった一…

手紙を書く さらさらした白い紙をインクで抉る そうすると インクは私の知らない声で話す 私の知らない、はなやかで人の良さそうな声で話す 紙の上でだけスカートをはいて 髪の毛を結って オレンジの声できらきらと笑う 誰か あの人の好きな、蜜柑色のセータ…

通い路

この夢が醒めたら 檸檬色の靴をはき 小径の枯葉を蹴り上げ クリィムソーダに薄紅の息を浮かべ 白い襟を帆に見立て 知らない唄を流すラジオを止め 紅いマニキュアを右の小指に塗り 弾倉に葡萄色の口紅を込め あなたのもとへ、はしろう