キメラ
千の掌で顔に触れ
万の足で土を踏む
かつては
成功者であり
失敗者であり
奪う者であり
奪われる者であった
凹と凸
滑らかさとざらつき
固さと柔らかさ
牙と羽毛を持つ
私は
私たちは
たった一人であり
一つの生物がみる、無数の夢
ねえ
手をとってよ
声をあげてよ
もう足なんて動かないんだろ
泣いてよ
そんで笑ってよ
その唇の端に貼り付けてあるそいつじゃなくてさ
ああ
ほらまた、たった一人で
だれかのために死んだりなんて、しないでさ
林檎
あした
庭の木に林檎がなる
庭の木に林檎がなる
やらかいだろうか
綺麗だろうか
おおきいだろうか
丸いだろうか
きっと
ばら色のほっぺたに
黄金色の甘い中身
あのちゃいろの細い枝の先
心待ちをまつげにのせて
ただ、微笑んで見つめる
ただ、微笑んで見つめる
たとえ、あしたが来なくとも
朝に実る
夕陽のような
私の林檎
緒
私たち
何もかも違いましたね
生まれた場所が
朝起きる時間が
話すことばが
好みの料理が
嫌いな服の色が
鼻の形が
目線の高さが
声の通り方が
ぜんぶ、ぜんぶ、違っているけど
互いが笑っていることはわかりましたね
かあさま
確かに 私たち
人間でしたね
ガラス
肺を満たす魚の群れ
煮詰まって
喘鳴に青を混ぜる
「 」
左目に地球
手を伸ばせば虚
白いイヤリング
靴音に斜陽
境界を削る爪先が
化け物じみた悲鳴をあげるのを
知らずに肩の上を跳ねる
その黒髪の、なんとあどけないことか
「 」
ああ
細く空いたたった一つのそれに
ただ、緋い花をさす