ティコの灯台

すべてのよだかに灯を。

林檎

 

あした

 

庭の木に林檎がなる

庭の木に林檎がなる

 

やらかいだろうか

綺麗だろうか

おおきいだろうか

丸いだろうか

 

きっと

ばら色のほっぺたに

黄金色の甘い中身

 

あのちゃいろの細い枝の先

心待ちをまつげにのせて

ただ、微笑んで見つめる

ただ、微笑んで見つめる

 

たとえ、あしたが来なくとも

 

朝に実る

夕陽のような

 

私の林檎

 

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冬を発つ

 

白陽に

 

融ける

 

輪郭

 

あなたのいのちと同じ温度が

つめたい首すじを這って

銀のまだらのアスファルトに跳ねるのが

妙に惜しくて

いとおしい

 

「春を待つよ」

笑った目尻に

引っかかった感情は

 

ちょうど今、発ったばかりだ

 

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私たち

 

何もかも違いましたね

 

生まれた場所が

 

朝起きる時間が

 

話すことばが

 

好みの料理が

 

嫌いな服の色が

 

鼻の形が

 

目線の高さが

 

声の通り方が

 

ぜんぶ、ぜんぶ、違っているけど

 

 

 

互いが笑っていることはわかりましたね

 

 

 

かあさま

 

確かに 私たち

 

人間でしたね

 

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或る国

 

 

その国では

 

紙の上にパンが湧き、

 

傘をさせば檸檬の味がする水が降ります

 

獣はみな草を食み、殺して肉を喰らうものはいません

 

家はいつでも百種類の花で飾られています

 

人びとは空飛ぶ靴と

 

掌に乗るほど小さい太陽をひとりに一つずつ持っていて

 

賢く、さまざまな魔法を知っています

 

子供はみなまるく美しく肥え、

 

大人はみな愛し、慈しみ合っています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その国のどこかに

 

 

 

 

 

 

灰色の大地に蹲って泣き咽ぶ子供がひとりだけいることは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も知りません

 

 

 

 

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ガラス

 

 

肺を満たす魚の群れ

煮詰まって

喘鳴に青を混ぜる

「    」

左目に地球

手を伸ばせば虚

白いイヤリング

靴音に斜陽

境界を削る爪先が

化け物じみた悲鳴をあげるのを

知らずに肩の上を跳ねる

その黒髪の、なんとあどけないことか

「          」

ああ

細く空いたたった一つのそれに

ただ、緋い花をさす

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