ティコの灯台

すべてのよだかに灯を。

ブログ移転のお知らせ

この度、当ブログは下記サイトに移転することになりました。 https://aotolemon.theblog.me ブログ名も 旧 ティコの灯台 から 新 青と檸檬 に変更されております。 これから新しく書く作品については、新ブログにて掲載させていただきます。 また、移転以前…

口実

新しい靴を買ったので あなたを誘ってみようと思う この間から借りたままのCDも返さなきゃいけないし 「歌詞は好きだけど、メロディは少しものたりないね」 そう言って渡すつもり そしたらきっと躍起になって語って聴かせてくれるのでしょう あの歌のメロデ…

愛とは呼べない

恋人たちはパズルのピース 少女だった頃、そう聞いた 互いに足りないものを補い合う、うつくしいつながりを 少女は探しに行ったまま、戻らない あとに残された寂しいあたしは、あなたにキスするふりをして その、やわらかな内臓に、熱くにがい酸を流して、空…

わたしよ

わたしよ わたしだったものよ どこへ行ってしまったのか 四月の椿が落ちた朝に 松葉に千切られた風が笑う午後に 太陽を灰色の海が呑んだ夕に 潰れた紙コップがやけに目についた夜に もしかして、死んでしまったのか わたしよ わたしだったものよ おれんじの…

アネモネ

また、ドアが叩かれる 「…どうぞ」 「うっとり」が「がっかり」に壊されないよう、冷えた両手に柔らかく握りしめて、 「この音は少し違うかもね」 なんて、舞い上がりそうな心に「じっくり」を被せて大人しくさせる。 ドアが開く か細い隙間から覗くつま先が…

遊星より、

あの日はあなたもご存知のとおり 降ってくるには絶好の星空でした ぼくは月のひかりに流されないよう 必死に流れ星のしっぽにしがみついて 夜のはじっこに着地しました 記念すべき初上陸に ぼくはといえば空を見上げて すっかり遠くなったあなたを探したもの…

U

夕焼けが一つ枝から落ちて 何かの終わりへ滑空する 去年の夏 白い窓辺に置いてきたジュースの缶と おんなじ色をした君のワンピース そのひらひらした裾は 僕の知らないやつだね 時計の針を5分進めてみたり 新しいスニーカーを買ってみたり 林檎を切らずに齧…

キメラ

千の掌で顔に触れ 万の足で土を踏む かつては 成功者であり 失敗者であり 奪う者であり 奪われる者であった 凹と凸 滑らかさとざらつき 固さと柔らかさ 牙と羽毛を持つ 私は 私たちは たった一人であり 一つの生物がみる、無数の夢

ねえ

手をとってよ 声をあげてよ もう足なんて動かないんだろ 泣いてよ そんで笑ってよ その唇の端に貼り付けてあるそいつじゃなくてさ ああ ほらまた、たった一人で だれかのために死んだりなんて、しないでさ

林檎

あした 庭の木に林檎がなる 庭の木に林檎がなる やらかいだろうか 綺麗だろうか おおきいだろうか 丸いだろうか きっと ばら色のほっぺたに 黄金色の甘い中身 あのちゃいろの細い枝の先 心待ちをまつげにのせて ただ、微笑んで見つめる ただ、微笑んで見つめ…

冬を発つ

白陽に 融ける 輪郭 あなたのいのちと同じ温度が つめたい首すじを這って 銀のまだらのアスファルトに跳ねるのが 妙に惜しくて いとおしい 「春を待つよ」 と 笑った目尻に 引っかかった感情は ちょうど今、発ったばかりだ

私たち 何もかも違いましたね 生まれた場所が 朝起きる時間が 話すことばが 好みの料理が 嫌いな服の色が 鼻の形が 目線の高さが 声の通り方が ぜんぶ、ぜんぶ、違っているけど 互いが笑っていることはわかりましたね かあさま 確かに 私たち 人間でしたね

或る国

その国では 紙の上にパンが湧き、 傘をさせば檸檬の味がする水が降ります 獣はみな草を食み、殺して肉を喰らうものはいません 家はいつでも百種類の花で飾られています 人びとは空飛ぶ靴と 掌に乗るほど小さい太陽をひとりに一つずつ持っていて 賢く、さまざ…

ガラス

肺を満たす魚の群れ 煮詰まって 喘鳴に青を混ぜる 「 」 左目に地球 手を伸ばせば虚 白いイヤリング 靴音に斜陽 境界を削る爪先が 化け物じみた悲鳴をあげるのを 知らずに肩の上を跳ねる その黒髪の、なんとあどけないことか 「 」 ああ 細く空いたたった一…

手紙を書く さらさらした白い紙をインクで抉る そうすると インクは私の知らない声で話す 私の知らない、はなやかで人の良さそうな声で話す 紙の上でだけスカートをはいて 髪の毛を結って オレンジの声できらきらと笑う 誰か あの人の好きな、蜜柑色のセータ…

通い路

この夢が醒めたら 檸檬色の靴をはき 小径の枯葉を蹴り上げ クリィムソーダに薄紅の息を浮かべ 白い襟を帆に見立て 知らない唄を流すラジオを止め 紅いマニキュアを右の小指に塗り 弾倉に葡萄色の口紅を込め あなたのもとへ、はしろう

チューニング

解き放たれた鋭い糸が布の柱に絡みつくそうかと思えばほつれ…途切れ、反発し/受け入れる 友よ 夜を明かそうひとすじの髪の先に点った燈だけを頼りにその傷はわたしがつけた傷輸血のように君のなかに押し入って・ほつれ・途切れ・反発し・受け入れるために巡…

テセウスの船

"Who the hell is he?" 有機質に取って代わる無機質隊列は交わり蠢きかたちを変える古い設計図の羊皮紙は燃え落ちたもとの顏がどんなだったかも解らない怒りは痛みは( )は確かにここにここに在ったのに気付けば、波音は遠く 問1.記憶は誰のものか 一歩一歩進…

きれいな人

あなたはきれいな人だからつくりものみたいにきれいな人だからAM5:02の雪よりらむねのびんに沈む月よりあなたはきれいな人だからがらすの魚がりんりんと音をたてて飛んで星になれずに割れたってそのほそい手足のむかう先蹴立てた灰が肌を裂いたって白いスカ…

ある夜のはなし

遠い、遠い星の距離を 雪の粒がつないで今夜だけの星座をつくる いつかの冷たい夜に くしゃくしゃに丸めて放ったねがいも 碧に 緋に かがやきながら いくつかの冒険を超えて ようやくここへ ようやく、ここへ あなたに"お帰り"を言ってもらいに まもなくドア…

むすんで ひらいて

無理にとは言わないけれど その手に握りしめてるそれは 冷たくて 悲しくて 寂しくて ちょっと大げさなそれは そりゃあ綺麗だけど とても綺麗だけど 手放したほうがいい その先っちょの尖ったとこが君の手のひらに食い込んで 痛いでしょう それからもう片っぽ…

ボイス

心臓の裏の柔らかなところを かき混ぜ 引き裂いて 生まれ出ようとしている それは 埃を被って縮こまったそれは ひどく醜く透明なそれは その声は 呼び止めるためにあるのでしょう 気付かれるためにあるのでしょう たいせつなあなたが 見向きもされないままで…

風を切る肌の熱さを 瞼の裏にひらめく鈍い瞬きを 不自由だと嘆く手足で わずかに わずかに 手繰り寄せる 私たちは目隠しをしたまま 暁の空を飛んでいるのだ

邂逅

今しかない 今しかないの "不十分だ"ってだれかが言ったとしても 十分になるのを待ってたら次にいつ会えるかわからないわ 私たちときたら 不十分のふの字にも満たないくらい不十分なのだから 紙切れの上のカミサマサンが "まだ早い"って言ってたとしても 私…

はーとぴーす

呼吸をするたびに またひと粒 ぼくのカケラが宙を舞う 公園の水場の蛇口の取っ手 水たまりを踏んで跳ねた泥 一段高くした自転車のサドル ぼくの"外側"と触れ合ったぜんぶ その数だけのカケラになって ふわふわ浮いてる ころころ転がる ぼくのカケラ おんなじ…

missing

誰そ彼の幻聴 地に満ちて残響 金木犀の昨日も白雪の明日も今は遠く ずっと昔に別れたはずの 古い街並みが肌を濡らすから 空を食む紺青に 星を刺して今を留める どうかあなたが帰るまで 世界がどこにもいかないように

嵐の幕間

その日はばかみたいに風が強い日で どうにもこうにもむしゃくしゃしていて あげく転んで泥だらけになって このまま死んでもいいなあなんて ぼんやり空を見上げたら その日一番の強い風が 希望どころか絶望まで 無遠慮に 吹き散らしていったもんだから ついで…

セントエルモ

噛み殺した嗚咽が零れる ナイフみたいに握りしめたペン すました白をひっかいて、刻まれた 「HELP ME.」 滴って、喉を焼き コンクリートの床に落ちる 赤を赤といえば銃で撃たれた 傷以外に得たものはない では、失ったものはあったか? 置き去りにした昨日も…

こひ

あの日 ほそい ねむの木の下で交はした うすいうすい玻璃のわれるやうな くちづけに解かされて わたしののどの奧の奧のはうに 流しこまれた 鈍いいろのそれが たぶん おそらく "こひ" といふやつが 春の子馬のやうに いつとなく わたしの中を駈けまはるので …

バースデイ

「あなたの泣き顔を見るのは、もう、これで何度目かしら 「泣いてないって?鏡をよく見てごらんなさい 「涙が流れていないだけよ 「だれからも愛されなさいって 「強い人でありなさいって 「賢い人でありなさいって 「迷わずに、止まらずに歩きなさいって 「…