文
手紙を書く
さらさらした白い紙をインクで抉る
そうすると
インクは私の知らない声で話す
私の知らない、はなやかで人の良さそうな声で話す
紙の上でだけスカートをはいて
髪の毛を結って
オレンジの声できらきらと笑う
誰か
あの人の好きな、蜜柑色のセーターを思い出す
…青色は、好きだっただろうか
今日もそこまで考えたとこで、薬缶が鳴くので、ペンを置く
チューニング
解き放たれた鋭い糸が布の柱に絡みつく
そうかと思えばほつれ…
途切れ、
反発し/受け入れる
友よ
夜を明かそう
ひとすじの髪の先に点った燈だけを頼りに
その傷はわたしがつけた傷
輸血のように
君のなかに押し入って
・ほつれ
・途切れ
・反発し
・受け入れるために
巡り
瞬き
噛みつき
抱きしめあって
我等の円環を歌おう
テセウスの船
"Who the hell is he?"
有機質に取って代わる無機質
隊列は
交わり
蠢き
かたちを変える
古い設計図の羊皮紙は燃え落ちた
もとの顏がどんなだったかも解らない
怒りは
痛みは
( )は
確かにここに
ここに
在ったのに
気付けば、波音は遠く
問1.記憶は誰のものか
一歩
一歩
進む毎
ミクロの肉が削げ落ちて
それを
歴史、と
呼んだりもする
仕方ないので塩を舐め
それを
身体、と
仮に呼ぼうか
問2.冷凍保存の魂が大気圏を出るまでの時間を求めよ
主観と客観で帆を織った
絹だったのは果たしてどちらだろう
価値と対価はいつから入れ替わっていただろう
まだ、指先が温かかったころ
握りしめていた青写真は
切れ端くらいは残っているだろうか
それすら無機質に変わるならば
そのときは
そのときは
いっそ
問3.作者の気持ちを答えなさい
きれいな人
あなたはきれいな人だから
つくりものみたいにきれいな人だから
AM5:02の雪より
らむねのびんに沈む月より
あなたはきれいな人だから
がらすの魚が
りんりんと音をたてて飛んで
星になれずに割れたって
そのほそい手足のむかう先
蹴立てた灰が肌を裂いたって
白いスカアトひるがえし
次々と
ツギツギト
世界をきれいにかきまぜるのでしょう
だからぼくは
あなたの散らしたかけらが突き刺さらぬように
息をひそめてまつのです
あなたがきれいでなくなるまで
ある夜のはなし
遠い、遠い星の距離を
雪の粒がつないで今夜だけの星座をつくる
いつかの冷たい夜に
くしゃくしゃに丸めて放ったねがいも
碧に
緋に
かがやきながら
いくつかの冒険を超えて
ようやくここへ
ようやく、ここへ
あなたに"お帰り"を言ってもらいに
まもなくドアをたたきます
さあ
さあ
どうか笑って
それから
「メリークリスマス」
むすんで ひらいて
無理にとは言わないけれど
その手に握りしめてるそれは
冷たくて
悲しくて
寂しくて
ちょっと大げさなそれは
そりゃあ綺麗だけど
とても綺麗だけど
手放したほうがいい
その先っちょの尖ったとこが君の手のひらに食い込んで
痛いでしょう
それからもう片っぽの手で
溢れないように
溢れないように
ぴったり閉じた唇のなかに
しっかり隠したそれも
放してやったほうがいい
昨日がそうだったように
今日が明日まで待っててくれるとは限らないよ
無理にとは、いわないけれど